2025.03.26

「木毛」で綺麗な地球環境を高知の未来へ

お話をしてくれた方

戸田 実知子さん

有限会社戸田商行
代表取締役

シンプル・丁寧な製造工程で自然に負荷のかからないものづくりを実現

今回お話を伺ったのは、有限会社戸田商行の代表取締役・戸田実知子さんです。有限会社戸田商行では、「木毛(もくめん)」という木材から作られた天然の緩衝材を製造しており、専業で「木毛」を生産している国内で唯一の会社でもあります。
今回はその木毛の特徴や環境へのメリット、そして有限会社戸田商行が考える未来に繋げるものづくりについてお聞きしました。

️高知の自然が生んだ木毛 環境に優しい緩衝材ができるまで

有限会社戸田商行とは、どんな企業ですか?
当社は1961年、義理の父が現在の本社所在地と同じ高知県土佐市で創業しました。
創業当時、高知県内における木毛の需要が伸びていたそうです。義理の父が山林を歩いて木立(※1)を売買するといった林業に携わる仕事をしていたため、時代の需要に合わせ、「山から切り出してきた木を自分たちで切って、木毛を作ろう」と始めたようです。
現在も創業当時と同じ土佐市の地で木を削った緩衝材「木毛」という製品の製造、また、2022年からは精油抽出の事業もあわせておこなっています。木毛の製造会社としては、当社が日本最後の会社です。

※1 群がって立っている木のこと

現在はどんなところで使われていますか?
現在は、果物や野菜などの緩衝材として使われています。高知県産のメロンやスイカ、徳島県産のレンコンなど、全国津々浦々の果物類や食品類に多くご利用いただいています。
木毛の製造工程を教えてください。
まず、木毛の素材である丸太を搬入し、皮を剥ぎ、製材機で縦方向に1/3から半分程度の大きさに切断して板状にします。それをさらに40cm程度にカットするとともに、節などの硬い部分は除去します。それを、包丁状の刃物とノコギリ状の刃物がスライド面にセットされている機械にセットし、薄く漉いていきます。 それを最後に乾燥させて完成です。
木毛のできあがりはすごく細い状態ですが、特別な技術が求められそうですね。
そうですね。木毛のできあがりは、機械にセットする角度によって変わってくるんです。それと一番大きな特徴は、木の目を切るようにしないと木毛特有のふんわりとした巻き(カール)がつかないんです。木毛は、細長く削った繊維が自然にくるっと丸まる性質を持っているのですが、この丸まりがないと緩衝性が発揮されません。そのため、職人が一つひとつ木の目を見ながら製造しています。

木毛が脱炭素に貢献!CO₂(二酸化炭素)削減と環境に優しい製造工程

木毛は木が材料なので環境に優しいイメージがありますが、一般的な緩衝材と比べてどのような特徴やメリットがあるのでしょうか?
まず、木毛の素材となる丸太が弊社へ搬入されてから木毛ができあがるまでの製造工程が、脱炭素に繋がっています。 当社では、木毛を削るための機械の動力は太陽光を使っています。倉庫に設置した太陽光パネルで発電し、その電力を自家消費していますが、発電量が不足する場合には、電力会社と契約し、自然エネルギー由来の電力を供給してもらっています。また、木毛の乾燥をする際には温風で乾燥をしていますが、この動力は木質バイオマス(※2)を使用しています。木毛を製造する過程で発生する木の皮や端材など、全て木から燃料を作り、温風を作り、乾燥をさせています。
そのため、廃材を出さない100%循環型工程で、CO₂(二酸化炭素)の排出量も少なく作られています。緩衝材には木毛の他に、いわゆる「プチプチ」と言われるポリエチレン気泡緩衝材や紙素材の緩衝材などがありますが、それらと比較しても製造上でのCO₂(二酸化炭素)排出量がかなり少ないかと思います。
また、木毛は使用後、廃棄する際にも自然に還る素材なので、安心して使っていただけると思います。

※2 再生可能な生物由来の有機性資源(化石燃料を除く)のことで、間伐材や造材で生じた木くず・原木・枝葉などの木材が含まれる

ユーザーの方からの反応はありますか?
木毛は、最終的には捨てられてしまうものではあるのですが、それでも、綺麗に作るために先代の時から刃物の手入れを頻繁にしたり、技術を磨いてきました。その成果か、「戸田さんのところの木毛は綺麗だよね」と言っていただけています。 また、果物は生物ですが、木も生物なので、「生のものを生のもので包んで運べるのは良いですよね」と喜んでいただけています。
最近では、食品以外にも例えば、クリスマスツリーを木毛で作ったり、色付きの木毛をご購入いただいてアート制作にご利用いただいたりというお声もいただいています。「軽くて自在に形を変えられる」という木毛の特徴を活かしてご利用いただいていますね。

木毛に込められた思いと未来の子どもたちへ伝えたい思い

地域に向けた取組や地域と一緒になっておこなっている取組はありますか?
地元の小学校の子どもたちが毎年工場見学に来てくれています。その際には、山の話をしたり、実際に木をカットする様子を見てもらったり、木に触れてもらう機会を設けています。
日本は昔から木に囲まれ、木の道具を使って暮らしてきたように「木の文化」ですよね。しかし、最近は「自然のもの」が身の回りから少なくなっていたり、無機質なものに囲まれていたりということも多いと思います。
だからこそ、できるだけ子どもたちの木に触れる機会が増えればいいなと思っています。「木を見るとホッとする」とか、「木の匂いを嗅ぐと癒される」と思ってもらえたら嬉しいです。
最後に、木毛を作るやりがい、そして未来に対しての思いを聞かせてください。
木毛は素晴らしい素材だと思っています。私たちは、「捨てるものなのに、こんなに手間をかけて作る必要があるのか」というくらいすごく丁寧に作っています。その丁寧さは、日本人が古くから大切にしてきたものづくりに対する思いや、作り手の矜持(きょうじ)が込められていると感じます。
最後に残された木毛の企業として、この思いを木毛に乗せ、未来に伝えていきたいですね。また、私たちは「木」という自然物を取り扱い、環境に負荷のかからないものづくりをしているからこそ、未来の子どもたちに綺麗な地球環境を残していく責任があると思っています。
そのため、環境に配慮したビジネススタイルをこれからも貫き、それを企業の軸として歩んでいきたいと思います。

有限会社戸田商行さんの取組は、国内で唯一の専業の木毛製造会社としての誇りと、脱炭素社会に向けた環境配慮な仕組みを実施されています。木毛という素材の魅力だけでなく、その製造工程で太陽光や木質バイオマスを活用し、廃材を無駄なく利用することでCO₂ (二酸化炭素)排出量を抑えた生産は、脱炭素に向けた理想的なビジネスモデルだと思いました。
また、「木」に囲まれた高知県という地域性を生かし、未来の子どもたちへ自然の大切さを伝える取組は、高知県ならではの素晴らしい活動だと思います。
環境に配慮された木毛を使って、大切な人への贈り物に活用してみると素敵ではないでしょうか?木毛に込められた「自然と共に生きる」思いを感じてみてください。