
今回紹介するのは、皆さんの身近な素材「デニム」を使った紙。丈夫でしっかりしたイメージのデニム生地が紙に生まれ変わるまでの物語と、それを使った商品について、販売を手掛ける「セキ株式会社高知営業所」の山本大輔さんにお話を伺いました。

■高知に根差して半世紀、地域との繋がりから生まれる商品たち
御社の主な事業内容を教えてください。
近年では、印刷物にとどまらず、HPの制作・ECサイトの構築、さらにイベント企画やWeb企画、そして運用まで含めたトータルの提案も行っています。お客様の課題に合わせて、紙とデジタルの両面からサポートできるのが特徴です。
また最近では、お菓子の箱などのパッケージ分野にも力を入れています。商品の魅力を伝える顔としてパッケージは重要で、環境配慮型素材への関心も高まっている分野だと感じています。

高知営業所は、どのような役割を担っているのでしょうか。
今回ご紹介するデニム混抄紙(※1)のように、背景にストーリーや想いがある素材は、単にモノを売るのではなく、その価値をどう伝えるかが大切になります。そこに営業としてのやりがいも感じています。
※1 混抄紙(こんしょうし):木材パルプに加え、さまざまな素材を混ぜ込み製造される紙の総称。廃棄物やリサイクル可能な材料を再利用できるため、環境素材としての可能性が注目されています。
■無理なく当たり前に行うことで広がる、環境への取り組み
情報印刷メディアを基盤とした事業活動の中で、環境配慮型経営を行っているということですが、具体的にどのような取り組みをされていますか。
印刷や紙の加工では大気汚染や廃棄物など、どうしても環境への負荷が発生してしまいます。そのためにも環境に負荷をかけない、廃棄物を可能な限りリサイクルするなどの仕組みをつくることを大事にしています。
印刷においては大気汚染の軽減を目的として水性フレキソ印刷(※2)を導入し揮発性有機化合物の発生を抑制、印刷工程全体を通してCO₂の発生を抑制することを目的としたグリーンプリンティング認証(※3)の取得、森林保全を目的としてFSC認証(※4)を取得し印刷に使用する紙や販売する紙にはFSC認証紙を採用しています。
弊社伊予工場ではISO14001(※5)を取得しています。太陽光発電システムの導入や廃棄物の分別やリサイクルを徹底、環境配慮型製品の開発など、全社をあげて環境対策に取り組んでいます。また自社だけの活動にとどめるのではなく、得意先様にもFSC認証紙の提案、カーボンニュートラルプリント(※6)やグリーンプリンティングの案内などを実施し、環境への配慮を共通の価値観として共有しています。
※2 水性フレキソ印刷:水を主成分とする水性インキを使用し、ゴムや樹脂でできた柔軟性のある版にインキをつけ、転写することで印刷を行う方法。
※3 グリーンプリンティング認証:一般社団法人 日本印刷産業連合会によって認定される、印刷資材、製造工程、印刷会社の取り組み全てが、環境に配慮されていることを示す認証制度。
※4 FSC認証:Forest Stewardship Council認証の略称。森林管理協議会(FSC)によって、「適切に管理された森林から生産された」と認められた製品に対して付与される国際的な認証制度。
※5 ISO14001:国際標準化機構( International Organization for Standardization)によって定められる国際的に通用する規格を制定する「ISO」のうち、環境マネジメントシステム(企業・組織が環境への負荷を減らしながら事業を行う仕組み)に関する規格。
※6 カーボンニュートラルプリント:製造過程で排出したと算定される温室効果ガス排出量をすべてカーボン・オフセット(削減できない温室効果ガスを、他の場所での削減・吸収活動によって相殺する仕組み)した製品。
環境への取り組みは、一朝一夕で効果が出るものではありません。だからこそ、無理のない形で、継続していくことが一番大事だと思っています。
高知は自然がとても身近にある場所なので、高知の企業は、意識している・いないに関わらず、環境に配慮した行動を自然にしているところが多い気がします。私たちも特別なことをしているというより、関わるすべての人やものに対して、環境を意識する気持ちを持って仕事をしている、それを大切にしています。
環境配慮型製品の拡大を進める中で生まれた、「デニム混抄紙」とはどういったものでしょう?
私たちがこの紙を知るきっかけになったのは、「じぃんず工房大方」さんから「デニムから紙を作ってみたものの、販路がなくて困っている」という相談からでした。じぃんず工房大方さんとはノベルティ制作に携わったことがあり、以前から知り合いだったので、今回も相談に来てくれた経緯があります。

そもそも、デニム混抄紙とはどんな紙なのでしょうか。
量にすると、月に約2トン、1日あたりで約100kg。これだけの量をただ捨てるのはもったいない、何とか活かせないかと考えられていました。

■デニム混抄紙の始まりから完成までとその魅力
紙づくりとの接点はどこにあったのでしょうか。
じぃんず工房大方さんとしても、端材をただ廃棄するのではなく、PRやブランド価値につながる形で活かしたいという想いがありました。お互いの課題と想いが重なって、タイミングがとても良かったんだと思います。「じゃあ、やってみようか!」と話がまとまったのが、デニム混抄紙誕生のきっかけです。
製品の開発には、どういった苦労があったかご存じですか。
一般的な紙は木材のパルプだけで作られていますが、そこに異なる素材を混ぜると、どうしても強度は落ちやすくなる。デニム繊維も例外ではなくて、単純に混ぜればいいというものではありませんでした。紙としての良さと、デニムならではの風合い、その両方を活かすための匙加減が一番大変だったと聞いています。混抄紙の場合、一般的にはパルプ9:その他の素材1、多くても7:3くらいが限界だそうです。それでも強度を保つのが難しい。
ところがこのデニム混抄紙はパルプとデニムを5:5という配合で作っています。これは正直、かなりすごいことだと思います。
製造方法にも工夫があるのでしょうか。

高知県立紙産業技術センターの皆さんを中心に、技術的に難しい部分を一つひとつ検証しながら、諦めずに試行錯誤を重ねた結果、今のデニム混抄紙が完成しました。単なる実験で終わらせず、実際に使える紙に仕上げようという強い想いがあったからこそだと思います。
販路の相談からどのような経緯で商品になりましたか。
「これ、何で作った紙なんですか?」
「デニムです」
この一言で伝わるストーリー性は、他の紙にはなかなかありません。
ただ、現実的な話をすると、A4サイズ1枚で約20円と決して安い紙ではない。だから最初は、どう売ればいいのか本当に悩みましたが、メモ帳を作ってみようかという話になり、そこから商品になるまでは早かったです。
製本や印刷は高知の印刷会社にお願いして、原則「オール高知」で作ることにしました。デニム混抄紙は、切れる・貼れる・折れる。求められるものに合わせて、形を自在に変えられるんです。サイズも変えやすく、ページ数やデザインの調整もしやすい。ノベルティとしても使いやすい素材だと感じました。
商品が完成すると、まずはじぃんず工房大方さんのオリジナルメモ帳として2023(令和5)年から販売を始めました。ありがたいことに、高知新聞にも取り上げていただきました。

「お父さんやお母さんが服を見ている間に、子どもも楽しめるように」という想いで、いろいろな雑貨を展開されていて、その中の一つとしてデニム混抄紙のポストカードを取り扱ってもらっています。
最初は本当に手探りでしたが、まずはメモ帳を作ってみようという判断が、結果的にこの素材の可能性を広げてくれたと思っています。どう売るか分からない紙だったデニム紙が、使い方を変えることで、価値が伝わる商品へと姿を変えたと感じています。

最後に、これからの展望についてお聞かせください
また、すでにある箱にデニム混抄紙を貼り合わせて、デニムらしさを出したいという企業さんもいます。紙そのものを商品にするだけでなく、パッケージ素材として使うという展開も、これから増えていくと思います。
デニム混抄紙は、薄くもできるし、厚くもできるので、受注生産で柔軟に対応できるのが強みです。
実は、これまでにいただいたご相談やご依頼は、ほとんどが県外の企業です。だからこそ今後は、高知の企業さんからの相談も増やしていきたいですし、同時に都市部への売り込みももっと力を入れていきたいですね。高知で生まれた素材だからこそ、全国に向けて発信していきたい。それが、地域の紙産業やものづくりのPRにもつながると思っています。
アイデアはいろいろありますよ。 例えば、ポストイット、マスキングテープ、レターセットなど。デニム混抄紙なら、文具との相性は抜群です。封筒も作れますし、使い方次第でまだまだ新しい商品が生まれると考えています。

まとめ
じぃんず工房大方から出る月2トンにも及ぶデニム端材をどうにかしたいという切実な声と、高知県立紙産業技術センター、土佐和紙製造モリシカが持つ混抄紙の技術が出会ったことで、生まれたデニム混抄紙。一枚一枚異なる風合いで、「何でできている紙なのか」すぐに語れるストーリー性は、価格だけでは測れない価値を持っています。
環境に配慮した素材は、決して安くはありませんが、新しい価値を生む選択として、人や企業の想いをつなぎ、使う人の意識を少しずつ変えていきます。捨てられるはずだったデニムが紙となり、日常の中で使われ、語られる。その循環こそが、脱炭素社会に向けた確かな一歩。環境配慮を「特別な取り組み」ではなく、「選びたくなる価値」へと変えるデニム紙のお話でした。