2026.03.26

木を使い、木を活かす。小さな工房の脱炭素のかたち

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現在は、木製雑貨の製造・販売を中心に活動しています。基本はインターネットでの販売が中心で、時々イベントにも出店しています。受注販売が多く、ご注文をいただいてから一つひとつ制作しています。
もともとは、赤ちゃん向けの動物の積み木などのおもちゃを作っていました。最近はスマートフォンスタンドや、ハリネズミをモチーフにした置き時計など、暮らしの中で使える日用雑貨も展開しています。
材料にはヒノキや高知県産の桜、用途に応じて洋材も取り入れています。木の質感や表情を生かしながら、日常の中で長く使ってもらえるものづくりを心がけています。


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私は東京生まれで、もともとはグラフィックデザイナーとして働いていました。フリーランスとして活動する中で、結婚をきっかけに群馬へ移り住み、東京の仕事をリモートで続けていました。ただ、子どもが生まれてからはなかなか大変で、働き方を見直すようになりました。そんなとき、近所にあった木工のお店で働くことになり、木製品のデザインを担当するようになりました。
デザインの仕事をしながら、職人さんが電動糸鋸(※1)で木を加工する姿を見ているうちに、「自分でも作りたい」という気持ちが強くなっていきました。また、デザインだけでなく、実際に手を動かしてものづくりをしたいと思うようになり、木工の仕事を学びながら3年ほど勤めました。

やがて自分の工房を持ちたいと考えるようになりましたが、群馬県では木材の仕入れが身近ではないことや、住宅地では機械の音など騒音を気にする必要があることが気がかりでした。そんなときに思い浮かんだのが高知県です。仲の良い友人が高知県に住んでいて、以前から気質が合いそうな土地だなと感じていました。実際に訪れてみると、山や森の緑の濃さに驚き、「ここで暮らしたい」と思うようになりました。
そこから子どもを連れて思い切って移住し、香美市で騒音を気にせず作業ができる賃貸物件を見つけ、木工工房をスタートしました。2015(平成27)年のことです。そこから佐川町で古民家を見つけ、2018(平成30)年に現在の場所へ引っ越ししてきました。

■木と密接だからこそ生まれた、脱炭素への思い・取り組み

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木工の魅力は、実際に手に取れる「形」があることだと思っています。グラフィックデザインは、自分の頭の中にあるイメージをもとに作る仕事でしたが、木工は材料によって表情が変わります。木の香りもありますし、触れたときの質感もあって、五感を使いながらものづくりができるところが面白いですね。思いがけない形や表情が生まれることもあり、そこも木工の楽しさだと感じています。
また、素材はすべて無垢材(※2)を使うことにこだわっています。長く使えるというだけでなく、時間が経つことで色合いや風合いが変わっていくのも木の魅力だと思うからです。
もともと古民家やアンティークのものが好きなので、使い込まれることで味わいが増していくものに惹かれます。自分の作った作品も、長く使われながら少しずつ表情を変え、愛着を持ってもらえるものになったらうれしいですね。
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木工をしていると、どうしても端材が出ます。受注生産が中心なので同じものを大量に作るわけではありませんが、それでも制作の過程でまだ使えそうな木の切れ端が少しずつ溜まっていきます。
最初の頃は清掃センターに持ち込み、お金を払って処分していました。ただ、捨てるたびに「まだ使えそうなのにもったいないな」と感じていたんです。木工はどうしても余白が出ますし、節や汚れなど木の癖がある部分は使えずに破棄することもあります。そうした木をそのまま捨ててしまうのは、やっぱり惜しいなと思うようになりました。
そこで、端材を活用する方法として薪ストーブを使えないかと考え始めました。ヒノキは油分が多く、薪ストーブには向かないとも言われていましたが、そういった木材でも燃やせる薪ストーブがあると聞き、導入することにしました。
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木工で出る端材は、薪ストーブの焚き付けにとても向いています。複雑な形にカットされた木は空気の通り道ができるので火がつきやすく、よく燃えるんです。工房で出る端材を燃料として使うことで、木を無駄にせず活用できるようになりました。
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ちなみにストーブで使う薪は、主に佐川町のものを使っています。薪は地元の方に届けてもらっていて、地域の木を使いながら工房の暖を取っています。
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自然はやっぱり循環していくものだと思っています。森の木も長い時間をかけて育ち、やがて次の世代につながっていきますよね。そうした循環のあり方は、ものづくりをする上でもお手本になるものだと感じています。
だからこそ、作品も大量生産ではなく、一つひとつ木と向き合いながら作っていきたいと思っています。例えば、100年かけて育った木を使って時計を作ると考えると、その時間の重みを感じますし、大切に扱わなければいけないと自然と思います。

脱炭素というと、実際に山へ行って木を植えるような取り組みを思い浮かべる方も多いかもしれません。ただ、ものづくりの仕事を通して間接的に関われることもあるのではないかと感じています。
例えば山には、広葉樹から針葉樹までさまざまな木があります。そうした多様な木をきちんと使い、無駄にせず活かしていくことも、結果的に脱炭素の一端を担うことにつながるのではないかと思っています。
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高知で活動する中で、ご家族と一緒に地域おこし協力隊として佐川町に移住され、自伐型林業(※3)をされている方と知り合いました。
現在は山の手入れをしながら林業に取り組まれているのですが、その方がクラウドファンディングを活用して本を出版される際、返礼品として木の作品を作ってほしいと声をかけていただき、制作に関わらせてもらいました。木を扱う仕事をしているので、林業の現場で活動している方とつながる機会をいただけたのはとてもありがたい経験でした。
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はい。本の題材となったのは徳島県那賀町にある森で、スギやヒノキだけではなく広葉樹も混ざる「針広混交林」だそうです。 「針広混交林」にはいろいろな種類の木が生えていて、生き物も多く、生物多様性が豊かな森です。林業というとスギやヒノキの人工林のイメージを持つ方も多いと思いますが、そういった森のあり方もあるんだと、本を読んで知ることができました。
また、木工をしていると、どうしても使いやすい木材に目が向きがちですが、山にはもっと多様な木があるんだと、改めて見つめ直すきっかけにもなりました。
そういう木をうまく活かしていくことができれば、森の循環にもつながりますし、間接的に脱炭素にも関わっていけるのではないかと思っています。
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最近は、おもちゃ類の販売に関する法律が以前より厳しくなってきたこともあり、制作するものにも少し変化が出てきています。今は五月人形やお雛様、時計など、時間をかけてじっくり向き合いながら作るものが増えてきました。
もともと一つひとつ手作業で作っているので、これからはさらに手のかかるものにも取り組みながら、質の良い作品を作っていきたいと思っています。
木としっかり向き合いながら、自分が本当に作りたいと思えるものを、これからも真面目に作り続けていきたいですね。