2024.11.11

高知県産未利用木材を使用した土佐グリーンパワーの木質バイオマス発電とは?

土佐グリーンパワー株式会社

高知県産未利用木材を使用した土佐グリーンパワーの木質バイオマス発電とは?

お話をしてくれた方

中村 正紀さん

土佐グリーンパワー株式会社 代表取締役社長

捨てられているだけだった木材をエネルギーに変える

皆さんもご存知の通り、高知県は84%が森林であり、日本一の森林率を有している、森林県です。過去に、木材を生産するために植えられた、杉や檜(ひのき)などの人口林率も65%と高いです。(※1)
そのため、森林維持のためにおこなう間伐作業も林業の大切な仕事の1つとなっています。
しかし、その間伐作業で切り出された木材も、丸太材やパルプ材(※2)といった形で活用されているのは70%程度で、残りの端材や曲がった木などの未利用材は使われずに処分されたり、山の中にそのまま残されたりしています。

     

※1 林野庁 都道府県別 森林率・人工林率(令和4年3月31日現在)
※2 おもに針葉樹や広葉樹からなる紙の原料となる木材      


今回お話を伺ったのは、そんな未利用材に着目し、木質バイオマス(※3)として有効活用して電力に変えている「土佐グリーンパワー株式会社」です。代表取締役社長・中村 正紀さんに事業の内容と木質バイオマス発電についてお聞きしました。

※3 再生可能な生物由来の有機性資源(化石燃料を除く)のことで、間伐材や造材で生じた木くず・原木・枝葉などの木材が含まれる

️“日本初”の木質バイオマス発電所!その特徴とは?

バイオマス発電事業を始めたきっかけを教えてください。
当社は出光興産株式会社、とさでん交通株式会社、高知県森林組合連合会の3社で2013年1月に設立し、高知県産の未利用材の活用のために「土佐発電所」を2015年4月に開始しました。林業が盛んな高知県で、使われていない木材を有効活用するだけでなく、電気を作り出し、雇用を生み、高知県の活性化にも貢献しようと再生可能エネルギー(※4)の発電事業を始めました。

※4 石油や石炭といった有限な資源である化石燃料とは異なり、自然の活動によってエネルギー源が絶えず再生、供給され、利用時にCO2(二酸化炭素)が増加しないエネルギー源

「木質バイオマス発電」にはどのような特徴がありますか?
木質バイオマス発電の大きな特徴は、他の再生可能エネルギーと比べて、安定供給が可能という点にあります。例えば、太陽光発電であれば日照時間、風力発電なら風任せと、時間や天候といった条件に左右されやすいです。しかし、木質バイオマスであれば時間や天候にも左右されず、木材が燃料になるので安定した供給が可能になり、24時間フル稼働で発電ができます。また、バイオマスエネルギーは、燃やしてもCO2の増減に影響を与えないため、カーボンニュートラル(※5)の定義にも則しており、環境にも配慮したエネルギー供給が可能です。

※5 燃料で発生するCO2(二酸化炭素)量と、樹木が生育過程で大気中から固定したCO2(二酸化炭素)量が等しく、プラスマイナスゼロとする考え方のこと

土佐発電所には“日本初”の特徴があると伺いましたが、いったいどのようなものなのでしょうか?
はい。土佐発電所では、木材の搬入から発電までを一貫しておこなっているのが特徴です。発電までの具体的な流れは、
①貯木場に集められた原木から選別された未利用材の搬入
②重量測定後に木材を貯蔵
③木質チップに加工するため原木を破砕
④特に水分を多く含む木質チップは水分を除去するためバーク(※6)を燃料として乾燥
⑤木質チップをサイロへ貯蔵しボイラーへ搬送
⑥ボイラーで木質チップを燃焼して蒸気を発生させ、タービンに供給
⑦供給された蒸気で発電機を駆動させ、作られた電気を送電
とこれらの全行程を一貫しておこなえる日本初の施設が土佐発電所です。

※6 丸太の樹皮を細かくした木材のこと

また、燃料となる木材を直接自社に搬入することで、運搬にかかる費用と燃料を抑えることでも環境に配慮しています。また、①〜⑦の各セクションには職員も必要になるので、雇用の創出という観点でも地域活性化に貢献させていただいています。

カーボンニュートラルを通じた地域貢献

当社では、見学の受け入れも積極的に実施しています。自社で制作した解説動画での学習や構内の見学を通して、高知県の森林や林業のこと、バイオマス発電について、自然環境への貢献など、より再生可能エネルギーに関心を持ってもらえるような活動をおこなっています。

また、当社の施設は小学校5年生の社会科の教科書にも取り上げられていることもあり、近隣の小学校からの依頼で当社の職員が小学校に赴いて出前授業をおこなうこともあります。現代においては、大人よりも子どもたちの方が「SDGs」「再生可能エネルギー」「カーボンニュートラル」といったフレーズを自然と耳にしているため、見学後の質問やレポートの中にも、自然と環境に対する感想を書く子どもたちが多いと感じています。
学校の授業のあと、お家に帰った子どもたちが、どのような学習をしたのか家庭でお話しすることで、親御さんにも御社の活動を知ってもらえると嬉しいですね。

高知県の未来を担う木質バイオマス発電を持続させるには

24時間フル稼働で電気の安定供給ができるとはいえ、ただ施設があるだけでは電気は作れません。持続可能なエネルギー発電のためには、林業も継続しないと成り立ちませんし、製材所で活用できない不要な木材を燃やすので、木材の需要が減ってしまっても発電が厳しくなってしまいます。
私たちができるはじめの一歩は、木の大切さやぬくもりを改めて認識して、もっと木を身近に感じることなのかもしれませんね。
そうですね。安価な輸入材に頼ってしまったこれまでの歴史や、高齢化による林業従事者の減少と担い手不足など、高知県の抱える課題は深刻です。当社は、地場の未利用木材を燃やすことで再生可能エネルギーの地産地消に貢献したいと考えています。
最後に、今後の取組や展望を教えてください。
当社では木質バイオマス発電に加え、2023年に自家消費型太陽光発電設備を設置し、木質チップを貯蔵するチップ棟の上に太陽光発電設備を構えて、社内で使う電気の一部を太陽光発電に切り替えました。
今後の大きな課題としては、木質チップを燃やす際の排熱やボイラーから発生する燃焼灰の有効活用も検討しています。
今、世界の企業は、環境に対してコストをかけてでもクリーンなエネルギーを使用しないといけないという考え方に変わってきています。
高知県でも、そう遠くない未来に企業自らが事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す「RE100(※7)」の取組が浸透してくるはずです。高知県産の使われていない木材を活用し、環境にやさしい電気が既に誕生していることを、より多くの高知県民の方に周知されるよう尽力していきたいです。

※7 企業が自らの事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄う国際的な取組

環境にやさしい取組を通じて、地域の活性化に繋げている「土佐グリーンパワー株式会社」。すべての人が安心して暮らせる社会の実現に向けた強い意思を中村さんから感じました。