2025.01.20

高知県産の木材を利用したCLTパネルとは?
集合住宅でCO2(二酸化炭素)削減に貢献する会社

お話をしてくれた方

丁野 敏明さん

株式会社響建設 代表取締役社長

高知県で環境に優しいマンションをつくる会社

皆さんはマンションの建設と聞くとどのようなものを想像しますか?
戸建住宅なら木造軸組みなど木造建築を思い浮かべる方も多いと思いますが、マンションとなるとやっぱり鉄筋コンクリートですよね?
しかし、高知県内には木造のマンションが既に何棟も建っているのです。

今回は、高知県産の木材を利用した木造マンションを手掛ける株式会社響建設の代表取締役社長・丁野敏明さんに、なぜ木造マンションが脱炭素につながっているのか、木材でつくる建物についてお話を伺いました。

当社は1970年に創業し、公共事業・一般住宅・店舗・医療介護施設・工場・事務所など時代時代に応じて様々な建築を手がけています。また、携わった発注元の維持管理も任せていただき、近年では中規模の建物を木造で建築できるCLT工法にも注力しています。

️従来の方法とは異なる「CLT工法」

CLTとは「Cross Laminated Timber」の略称で、「ラミナ」と言われる一枚のひき板を並べた後に、繊維方向が直交するように積層接着(※1)した木質系の材料のことを言います。

※1 ムクの一枚板ではなく、単板を数多く重ね合わせて接着した木を積層材といい、この積層材と積層材を合わせたもの

板を並べて繊維方向が直交と言うと、ジェンガのスタート時のような配列で木を組み合わせているということですね。
そうです。ジェンガのように接着した一枚の大きな板をCLTパネルと呼びます。CLTパネルは構造躯体 (※2)として建物を支えるだけでなく、断熱性、遮炎性、遮熱性、遮音性など沢山の効果も期待できる製品なんですよ。また、工場内で一部の材料を組み立てて現場に搬入できるので、工期の短縮にもつながります。さらに、接合具もシンプルなので、熟練の技などを求めなくとも施工が可能なうえに、従来の鉄筋コンクリート造と比べた場合の軽さも魅力の一つです。

※2 建築物全体の構造的に支える骨組み部分のことで、建物の構造をかたちづくる部材の集まり


少し伺っただけでもとても魅力的な製品だということが伝わってきます。丁野さんがCLT工法を知ったきっかけはなんですか?
私が知ったきっかけは、高知県で開催されたセミナーで銘建工業株式会社の中島社長がCLTを紹介している講演を聞いたときです。ヨーロッパでは、既に大きな建物にも取り入れられている工法ですが、日本ではまだまだ実績のない工法でした。
そこで、CLT工法を活用して、大きな板で壁や床を作り、集合住宅や介護施設などの部屋が連続するような用途の建物との相性がいいなと感じました。
CLT工法をすぐに取り入れることはできましたか?
はい。まずは、実績作りも兼ねて自社の所有する土地で建ててみようと、4年前に高知県初の木造デザイナーズマンションとして3階建ての賃貸住宅を建てました。そうすると、お客さんからも問い合わせがあり、その後2階建てと3階建てのマンションの施工をお任せいただきました。

「CLT工法」のメリットとは?

大きなメリットは、施工の速さと軽量性ですが、他にも様々なメリットがあります。
①軽量性
軽さによって、建物を建てる際の基礎工事にかかるコストや地盤補強費も削減されます。
②耐震性・耐火性
阪神淡路大震災レベルの観測波以上の力にも強い安全性があり、万が一の火事の際も壁が焼け抜けにくい耐火性もあります。
③吸放湿性
木材特有の吸放湿性(※3)による調湿効果で、カビの発生を抑えることができます。
過剰な湿度を抑えられるので、体感温度もとても快適です。
④断熱性
断熱性が高いので、外断熱と組み合わせることによってさらに高い断熱性を発揮することができます。
⑤環境負荷低減
今回のお話のキモでもある環境負荷の低減も大きな特徴です。CLT工法で建造することにより、製造時にCO2(二酸化炭素)を排出するコンクリートの使用を削減できます。成長する過程で空気中のCO2(二酸化炭素)を吸収した木材を使い、建設時に発生するCO2(二酸化炭素)は新たに成長する木が吸収してくれるという考えです。
また、従来の木造建築よりも多い木材を利用するため、間伐期を迎えた森林資源を有効活用できます。CLT工法を用いた木造建築物を建てることで、資材の製造から施工までの建設プロセスから排出される温室効果ガスの量は、同規模の鉄筋コンクリートや鉄骨造と比較するととても少ないです。

※3 空気中の水蒸気を収着したり、放出したりすること

快適に暮らせるうえに、大幅なCO2(二酸化炭素)削減に貢献できるのですね。
そうですね。今は世の中の流れが脱炭素を意識していると感じています。特に高知県では木を生かした住まいづくりを提唱している人が多いですね。
現在おこなっている取組はありますか?
「高知県環境不動産」の認定に向けて、元々当社の社屋が建っていた高知県吾川郡いの町に4階建てのマンションを建設中です。令和5年4月から高知県産木材の利用増大や、環境への負担低減を図れるよう、全国に先駆けて木造・木質化された非住宅建築物を「高知県環境不動産」として認定する制度が始まりました。しかし、条件を満たしている建築物が今は高知県にないので、マンションが完成して認定が取得できれば第一号になる予定です。こちらでは構造見学会(※)も予定しています。(※2024年10月12日開催済み)
今後の展望や課題などを教えてください。
CLT工法は、コンクリートに比べてコストが高いと言われていますが、CLTパネルを規格化した集合住宅での標準プランでコストダウンを図り、同等か安価になってきています。そのため、CLT工法の建物の住環境の良さをメリットとして、まだ在来工法(※4)とのコスト高を意識しないアピールをしていきたいです。 また、CLT協会のセミナーで講話をし、CLT工法の普及のための活動もおこなっています。業界では浸透してきたCLT工法ですが、一般的な認知度はまだまだなので、もっと高知県民の方にも知ってもらえたら嬉しいです。

※4 CLT工法が床や壁などの面で支える面構造であるのに対して、在来工法は線で家を組み立てるイメージであり、コンクリートの土台に柱を立てて梁との軸組によって組み立てる工法のこと

取材後に、CLT工法で建てた響建設さんの倉庫の見学をさせていただきました。CLT工法は木材をふんだんに使っているとはいえ、いざ建物が完成したら集合住宅の場合は防耐火や内装制限により構造躯体は全て隠れてしまうので、一見すると鉄筋コンクリートのマンションと変わりありません。高知県産の木材を利用し、CO2(二酸化炭素)削減に貢献するCLT工法の今後の普及が楽しみです。