
お話をしてくれた方

岡村 征治さん
高知FORESTVISION株式会社 代表取締役
日高村から心身を豊かにする“香り”を届ける
「おいしそう」「癒される」「集中できる」など、皆さんの身の回りには五感をくすぐる様々な「香り」が存在します。今回は、ヒーリングや抗ストレスといった心や身体を整えてくれる効果が期待できるエッセンシャルオイルを、カーボンニュートラル(※1)の蒸留で製造する「高知FOREST VISION株式会社」です。エッセンシャルオイルと脱炭素にどのような関係があるのか?代表取締役・岡村征治さんにお話を伺いました。

今回訪れたのは日高村。目の前を屋形船が行き来する仁淀川のほとりに高知FOREST VISION株式会社があり、ちょうどヒノキオイルの抽出を行っている岡村さんがいらっしゃいました。
※1 燃料で発生するCO2(二酸化炭素)量と、樹木が生育過程で大気中から固定したCO2(二酸化炭素)量が等しく、プラスマイナスゼロとする考え方のこと
️エッセンシャルオイル×脱炭素
- 日高村で、岡村さんはどのような取組をしているのか教えてください。
- 当社が誕生したのは2022年です。地域の活性や地方の恵みを有効活用できないかと事業を立ち上げたのが始まりです。現在は、高知の樹木や柑橘、作物(生姜・山椒・ハーブ等)などを使用し、100%天然由来のエッセンシャルオイル「和悠香(わゆか)」を製造・販売していますが、実は「エッセンシャルオイルを作る」というのが当社の目的というわけではなく、高知という自然に恵まれた土地から、地方の活力や創造を導きたいという思いで活動する中で、たどり着いたのが100%高知県産の素材を使ったエッセンシャルオイルでした。
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高知の豊かな自然を“香り”として楽しめるのですね!
また、こちらで製造しているエッセンシャルオイルは、カーボンニュートラルでの蒸留で環境に優しいと伺いました。
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はい。私たちは「常圧水蒸気蒸留法」という、香りの材料を釜に入れて水とともに加熱し、水蒸気で香りを抽出する方法でエッセンシャルオイルを作っています。
日高村錦山からの湧水を流量と流圧だけで引き込み、LABO上部にあるタンクへ引き上げ、自重・水圧流のみでLABOに引き込み冷却用・蒸留する水として利用しています。1度の蒸留で500㍑を超える規模の運用になるのですが、電気や燃料を利用するポンプを使わずに蒸留する施設は、実はここだけなんです。

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とても大掛かりな仕組みですね!
湧水の水圧だけで水を引き込むことも元々計算通りだったのですか?
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もともと、こうしたいというイメージはありましたが、運もありました。
地元の方から湧き水の水脈などをお教えいただき、何か所か調査した結果、この水脈なら、水圧・水量の計算から、引き込めれば可能とありましたが、最後、垂直に引き上げる部分、そして何よりその水脈があったという部分は運でした。
水圧が足りなければポンプの使用も検討していましたが、うまい具合に引き込むことができました。
- 製造の中で、他にはどのような特徴がありますか?
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焚く熱源として、日高村から出る間伐材(※2)や、地元での建築の際に発生した廃材をリサイクル燃料として活用しています。
薪を炊く際に排出するCO2(二酸化炭素)は、薪が吸収したCO2(二酸化炭素)を大気中に戻しているということになります。排出と吸収のバランスもしっかりと取れて、カーボンニュートラルの定義に則しているので、国内で唯一の「カーボンニュートラル精油蒸留工房」として稼働しています。
エッセンシャルオイルを蒸留するプロセスに、電気・ガスなどの原動力は一切使用しておりません。
※2 森林の成長に応じて、樹木の一部を伐採し、残った樹木を健全に成長させる作業

持続可能な香りの創造、高知から世界へ

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地域の資源を活かして装置を動かしているんですね!
この装置で、どのようなエッセンシャルオイルを作っていますか?
- 私たちが作るのは、高知県産の樹木、柑橘、ハーブを使った100%天然由来のエッセンシャルオイルです。クロモジ、ヒノキ、赤松やニッケイと言った樹木を使いますが、一口に「樹木」と言っても、枝葉、木部で香りもグッと変わります。また、柑橘王国高知県を代表するユズ、文旦、小夏にベルガモットなど24種の果皮の他にも、モヒートでお馴染みのイエルバブエナやレモングラスといったハーブまで、現在は70種以上のバリエーションを展開しています。
- そんなにたくさんの種類があるんですね。
- はい!当社のバリエーションは蒸留ブランドでは日本最多です。単純に高知県産の素材を使っているというだけではなく、不要となる柑橘の有効活用や、端物や生産過多で廃棄される農作物の活用にも一役買っています。また、高齢者の方の手入れが行き届かない作物や植物に関しては、我々が実際に畑や山まで赴き、収穫をしたり手入れをしたりして、地域の皆さんと交流しながら、私たちの活動についても知ってもらえるきっかけ作りをしています。
- 地域の活性化にも一役買っているんですね。
- それだけではありません。エッセンシャルオイル蒸留後に出る残さ(※3)も肥料として有効活用し資源の循環に繋がるサイクルを作ります。創業当時は原野で何もなく、地元の方々のご協力で開拓したこの場所ですが、草を刈り、工房を建て、畑を作って来ました。まだまだ発展途中ですが、既に国内外からの見学・体験と観光として多くの方にご来訪頂いておりますが、更に、たくさんの人にこの場所を知ってもらいたいと考えています。
※3 濾過(ろか)したあとなどに残ったかす

- 蒸留LABOへは一般の方でも来て大丈夫ですか?
- もちろんです。事前にご連絡いただければ、実際の蒸留の様子も見学ができますし、工房の横にある建物では全種類のエッセンシャルオイルを試香していただいたり、在庫がある分のご購入もしていただけます。
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工房でも自分が好きな香りを見つけられるんですね!
今後の取組について教えてください。
- 当社としては、産業連携した高知県を発信し、高知県を香りの聖地として全国・世界にアピールしていきたいと考えています。まずは高知の1次産業(※4)を活性化させ、「香り」という2次産業(※5)・3次産業(※6)から、新たな創造と人が繋ぐ5次産業(※7)へと発展していくことが目的です。ですから、このエッセンシャルオイルのボトルにはそれぞれの原料の市町村名も入れています。拠点は日高村にありますが、日高村を元気にしつつ、高知県全体の活性化につながる事業をこれからも持続していきたいと考えています。本日はありがとうございました!
※4 農業・林業・水産業など、自然から資源を採取する産業
※5 1次産業から採取した資源を、加工生産すること。鉱工業や製造業、建設業などが該当する
※6 流通・販売など目に見えないサービスや情報の生産をおこなう産業
※7 AI・IoTの活用による人間中心で環境の変化への対応力のある持続可能な産業
高知県から世界に「香り」を届けるために、カーボンニュートラル精油蒸留工房和悠香LABOを運営する高知FOREST VISION株式会社では、県内34の市町村との連携を推進し、環境に配慮した取組をさらに押し進めていくそうです。高知が香りの聖地になる日は遠くないかもしれません。